空間の多様性と曖昧性について

小島寛之さんという経済学者・数学者の著書を愛読しています。

話題が豊富で、読むと必ず知見が広がったと実感できる本ばかりです。
著書の一つであるベスト新書『数学的思考の技術』のp156「第6章 私たちが暮らすべき魅力的な都市とは」という章があります。
ここで、「道はまっすぐ」、「道路区画は格子状」、「区域を工業地域、商業地域、住宅等で、機能別にわける」方が良いという機能優先の合理主義の思想で都市デザインを考えた建築家の巨匠ル・コルビュジエとミース・ファン・デル・ローエのことが書かれていました。
特に、コルビュジエは私が東京で仕事をしていた時に、夜間でデザイン学校のSTRAMDで学んだことを記憶しています。
ところが、この思想で作られたアメリカのプルーイット・アイゴーしかり、インドのチャンディーガルしかり、ブラジルのブラジリア等次々と暮らしづらく、犯罪が多発する失敗例となってしまったとのことです。
なぜか?
アメリカの都市学者ジェーン・ジェイコブスは、アメリカの代表的な都市を調査し、魅力的な都市の備える4条件を以下に定義した。
1、街路の幅が狭く、曲がっていて、一つ一つのブロックの長さが短い
2、古い建物と新しい建物が混在
3、各区域は、二つ以上の機能を果たす
4、人口密度ができるだけ高い
合理主義な都市計画の真逆のような内容ですね。
更に、ルドフスキーという学者が『人間のための街路』において、街路や階段などが単なる通行路に終わらず、多様な機能(街路は子どもの遊び場でもあり、露天の店先でありetc)を備えていることがいかに人の暮らしを豊かにしているかを論じています。
このような内容を小島さんは6章で整理しておられます。
役割を明確にせず、多機能性、曖昧性を内包した環境の方が、日々の生活を営む都市としては良い。
この話を読んで、日本の伝統的家屋の空間の取り方もまさしくその通りではないかと思いました。
家の「ソト」と「ウチ」を分ける壁ではない縁側というものがあります。
また、部屋と部屋を区別する襖。 これは、開けたり閉めたりできるため、部屋の役割を固定しません。また、壁で隔てるのではなく、襖で仕切られていても隣の部屋の気配が感じられます。欄間もありますね。
時には寝床となり、食事の場所になる多様な役割を担える畳。
考えれば日本の家屋は多機能性、曖昧性の宝庫であり、文化として非常に興味深く感じます。
西洋の家だと、こういう役割は廊下なのかもしれませんが、どうなのでしょう。
橋本圭司